■カワサキ/Kawasaki Z125 PRO(2016) 34万5,600円 試乗インプレッション

カワサキの『Z』シリーズといえば40年の歴史を持つストリートモーターサイクルで、同社の代名詞のひとつとも言えるモデルです。

■カワサキ/Kawasaki Z125 PRO(2016) 34万5,600円 試乗インプレッション

 

Kawasaki Z125 PRO(2016) 34万5,600円

 

掲載日:2017年03月29日  取材・写真・文/やかん  撮影機材協力/オリンパス

 

キング『Z』の系譜は確かに受け継がれている、軽快・機敏なスーパースポーツモデル

 


カワサキの『Z』シリーズといえば40年の歴史を持つストリートモーターサイクルで、同社の代名詞のひとつとも言えるモデルです。現在もそのバリエーションは豊富で、海外モデルも含めますと多くの排気量が存在します。また、ここ数年で大きく意匠が変わったエクステリアが、同じストリートモデルのNinjaと明確な差別化が図られていて、ますますZの存在感を際立たせている、と個人的に感じています。


Z125 PROは、その由緒あるスーパースポーツマシンの末弟として登場したモデルで、排気量を125ccと大きく落としながらも先述のエクステリアなど多くの点において兄貴分に迫るモノを持った1台となっています。メーカーでも「最も機敏なスーパーネイキッド」とうたっており、日本では“原付二種”と区分けされそうな本機に、決してそうではない期待を寄せていることが解ります。


その心臓部には、空冷4ストローク単気筒のSOHC2バルブを与え、デジタルフューエルインジェクションにより制御がされるようになっています。ミッションはマニュアルクラッチの4速を備え、102kgの車体をアーバンストリートに駆け出させます。支えるフレームには、コンパクトなシルエットにも寄与する新設計の高張力鋼製バックボーンフレームを奢り、足まわりもバネ下重量を低減したインナーチューブ径ø30mmの倒立フォークとレイダウンさせたシングルショックユニットを車体中心から右にオフセットして装着し、軽快で機敏な走りを企図します。


制動系は、ABSこそ備えていませんが前後とも油圧式ディスクブレーキを装備し、ローターは同社の大排気量スポーツモデルにも採用されるペタル形状を採用しています。ホイール径は前後12インチのアルミニウム製キャストホイールとなり、バネ下重量の軽減に寄与しながら組み合わされるタイアとの相乗効果で、確実なグリップ力とシャープなハンドリングを狙っています。


このように、小排気量で一見、通勤用途のマシンと受け取られそうなところを見事に裏切り、そして「走り」に期待を寄せざるを得ない装備を誇っているのが、このZ125 PROなのです。


ただし一点、現車を目にする以前に危惧されたのが、この排気量でありながら100kgを超す車重はパワーウェイトレシオの点ではかなり不利なのでは、ということです。装備は豪華でルックスも王者であるZシリーズの最高峰モデルの雰囲気を感じさせますが、その実、モッサリとしたマシンになってしまっていたら、という懸念です。


しかし、この点はいざ実車と触れることで杞憂であることが解りました。まず、なによりもその全体の小ささが際立ち、また、重心も非常に低く中心に来るようデザインされており、「サイズの割には重さがある」とは感じますがそれがネガティブにはたらくことはないような印象です。


始動はセルフスターターとなり、ボタンのひと押しで軽快に空冷4ストローク単気筒に火が入ります。これについては、KACR(カワサキオートマチックコンプレッションリリース)という機能が備わっており、始動時にシリンダー内の圧力を排気バルブから抜き、容易なエンジン始動を可能にしている、ということです。何度も試してみましたが、確かにエンジンは一度も咳き込むことなく回り始めます。


跨ってみると、シート幅はあるものの高さは780mmとたいへん低く設計されているため足着きは容易で、乗り手を選ぶ雰囲気はありません。『Z』のマスクは、今の意匠になってからはさらに鋭さが増して乗り手を選ぶ印象ですが、Z125 PROに関してはビギナーもまったく困らない優しさも兼ね備えているマシンのようです。先述の重さも、股下のかなり低い位置に集約されていて、バランスを崩すようなことはありません。


それでは、いざ公道に走り出してみることにしました。


乗り始めてすぐに感じたのが、ピックアップの良いアクセルタッチです。電子制御されたインジェクションとレスポンスに優れたエンジンはじつに軽妙で、あっという間にパワーバンドはレッドゾーンに突入します。かといって、スポーティー過ぎてトルク不足という訳でもなく、クラッチミートに確実に追従する力強さを持ちます。エアクリーナボックスを2.6ℓの大容量とすることでパワーフィールを向上させている、とのことなので狙い通りといったところでしょうか。


走り慣れてくるとさらに解ってきたのが、適度な衝撃吸収能力を持ちながらも軽快なスポーツ走行を成立させている足まわりの良好さです。フロントサスペンションは100mmのトラベル量を持ち、アルミニウム製の軽量トップブリッジも加わり、細かな振動はよく吸収するのに決して動きすぎる、ということがありません。リアサスペンションも駆動輪を確実に路面に押し付ける高性能さで、フレームも合わせ骨格が実にしっかりとしたマシンに仕上がっています。


トランスミッションが、Z125 PROオリジナルのエンジンではないため4速までしかないのが残念ですが、高回転域までスムーズに吹け上がるエンジン特性なので「回して」乗れば、相当にシャープなスポーツ走行が楽しめます。そもそもが、車体がとてもコンパクトで、燃料タンクは大容量の7.4ℓですが上方におかしな重さを感じることもなく、「さすが125cc!」という取り回しの良さは多くのライダーを魅了するのではないでしょうか。


ホイール周りやペタルディスクブレーキ、組み合わされるタイアの性能もすこぶる良好で、“スーパースポーツ”の間口を広げるとても良くできたモーターサイクルに仕上がっており、あえてこの排気量で出したカワサキの真意と本気を感じさせられました。


現実問題としても、125ccの排気量は高速道路に乗れないだけでさまざまなメリットもあり、またメーカー希望小売価格は35万円弱(税込)という入りやすい設定で、「王者Zには憧れているがさすがにあの大排気量は……」と二の足を踏むユーザーにドンピシャな1台です。維持費、保管場所、燃費を考えると(レギュラーガソリン仕様)お財布にたいへん優しく、しかしその身分に甘んじないこのZ125 PROは、日本国内でも活況の125ccクラスに強烈なイメージを叩きつけるモデルと言えます。


筆者は正直、このZ125 PROが欲しいです。広報車を返却するその日がとにかく名残惜しく、何かと理由を付けてはほうぼうを乗り回していました。コンパクトさとエンジン始動性の良さが、ライダーのフットワークをたいへん軽くし、まさにストリートに積極的に駆け出す魅力を備えていました。国内メーカーは補修部品の供給やメンテナンスの点でも安心できるところも多く、本機はもっとこの良さを知られてよいモーターサイクルだと感じました。


気になるかたはぜひ店頭で一度跨ってみることをお薦めします。もちろん、試乗も可能でありましたらヘルメット片手にTRYしてほしいです。一発でその機敏で軽快な魅力の虜になること、間違いなしです。

 


※価格は税込み。掲載時点でのものです。

 

 

心臓部は、横置きレイアウトの125cc空冷4ストローク単気筒のSOHC2バルブ。下部には、スポーティーなアンダーカウルを備える。
エキゾーストパイプとサイレンサーはコンパクトにエンジン下にレイアウトされ、マスの集中化に貢献。ハニカム式のキャタライザーとO2センサーにより排出ガスのクリーン化を実現してもいる。
インナーチューブ径ø30mmの倒立フォークには、スポーツ走行に適した剛性感あるセッティングが施される。ストロークは100mm。アルミニウム製の軽量トップブリッジも加わる。
リアは、レイダウンさせたシングルショックユニットを車体中心から右にオフセット装着し、コンパクトな車体パッケージに貢献。レバー比は機敏なハンドリングと快適性を両立する設定としている。
カワサキの大排気量スポーツモデルにも採用されるペタルディスクブレーキを採用。シングルポッドで、ローター径はΦ200mm。
リアも、ペタルディスクブレーキを採用。スーパーネイキッドらしいルックスに。径はΦ184mm。
12インチのアルミ製キャストホイールにはIRCのロードタイアが装備される。豪雨下での走行でも、グリップ性は確保されていて良質。
シフトペダルには、大排気量モデル同様のリンク式を採用し、これにより軽い力でのギヤチェンジが可能。ギア抜けや入りにくいことは、一切なかった。
125ccなのでタンデムステップを備える。ただし、タンデムシートの座面はかなり小さく、やや心配にはなる。
この価格と排気量なのにスポーティなアナログタコメーターと、ギヤポジションインジケーターや燃料計を表示する多機能デジタルLCD液晶ディスプレイを装備する。スピードメーター、時計、オドメーターに、トリップメーターも表示する。
フューエルタンクは、アグレッシブなスーパーネイキッドのイメージを持つ大容量7.4ℓ。上面は前傾しつつ幅広く、シート付近はスリムでダイナミックなデザインは、フラッグシップモデルを彷彿とさせる。
燃料キャップは安全装置を持つ固定式で、キーカバーも備えルックスを損なわないよう工夫されている。ガソリンは、一応レギュラー指定。
ハンドルロックがタンクとステアリングの間に備わり、盗難防止に寄与。もちろんサイズや車重を考えると、別のロックは必要ではあろうが。
シートに跨った状態のコクピット周り。大型ではないのでそれほど前傾姿勢はとらなくてよく、またメーターの視認性も高い。
張り出したシュラウドからタンク後端にかけてはシェイプが掛かり、ポジションの自由度を高めている。本格的に乗り込むと、体重移動は欠かせないがそれを阻害することないデザイン。
ハンドルはかなり切れ込む設計で、最小回転半径は2.1m。狭い場所での取り回しと街中の走行でもストレスなく楽しめる。
鋭い眼光を連想させるコンパクトなヘッドライトカウルは、今の『Z』の特徴。末弟と言いながらそのイメージは踏襲されている。ポジションランプを備える。
スポーティなマルチリフレクタータイプのシングルヘッドライトは、イメージへの貢献だけでなく、夜間の視認性を大きく向上させている。
フロントからの眺めは、まさに『Z』。ハンドルのレイアウトだけが唯一、本機のコンパクトさを物語る。
燈火周りで一点だけ残念なのは、ハザードランプ機能を持たないこと。ロードモデルであるし視認性の高いウィンカーなので、これは欲しかった。
テール周りも実にアグレッシブでシャープな仕上がりとなり、LEDテールライトは “Z”の文字をモチーフにしたデザインとなる。ウインカーもクリアレンズとなり、スタイリッシュなイメージを与える。
真後ろから見ると“Z”をモチーフにしたランプのレイアウトがよく解る。125ccのポジションに甘んじることのない、難い演出だ。
価格を考えると豪奢と言えるエンボス状のロゴマークを持つ。大胆なエア抜きなどのデザインと相俟って、所有欲はおおいに満たされる。
シュラウド類は先鋭的な形状となり、Zシリーズ共通のアグレッシブなイメージが演出される。一部にはカーボン地を感じさせるパーツの使用もある。
その佇まいは明らかにZシリーズのそれであり、サイズ感を把握していなければ125ccのマシンとは誰も思わないだろう。
シート下にヘルメットホルダーを装備するが、やや使いにくい。シートを都度外す必要もあり、ルックスとの兼ね合いに苦労したのだろう。(ヘルメット協力:ショウエイ)
たまたま豪雨の中を走ることがあったのだが、外車にありがちなウィンカーレンズ内への水の侵入は認められなかった。さすが国内メーカー、と言ったところ。
マルチリフレクター仕様のヘッドライトは、かなりの明るさを誇る。ハイビームも強烈で、夜間の安全性は高い。
ライダー側から見るとこれほど明るさが担保される。正直、普段オフロード車しか乗らない筆者としては、驚く光量であった。
テールライトのZ文字も夜間で効果的なアピールをしてくれる。ストップランプはさらに明るいので、安心だろう。

 

 

 

※本記事の撮影はオリンパスの協力を得て、スタイラス1sで行っています。

 

 


ダート&モト編集部
サトウハルミチ(やかん) Harumichi Sato
東京都生まれ千葉県育ちで、身長156cmのminiライダー。紙媒体の編集を長く経験した後、2012年4月から初めてWEBマガジンに携わる。戦車から旅客機まで無類の乗り物好きで、特に土の上を走る四輪・二輪に目がない。競争事も好きで、MTB/MXはレース経験あり。モーターサイクル以外にフィルムカメラ、オーディオ、自転車、クルマ、紙の読書(恩田 陸先生の大ファン)、ガンプラが大好きで、住まいはモノで溢れている。特技は引き落としの滞納。