【カワサキ】KLX230 / Rの全貌と魅力を紐解く、特濃試乗インプレッション&開発者インタビュー。(KLX230R編)

より突っ込んだ『インプレッション記事』。開発の経緯、目的、意図を尊重して『 KLX230R 』(コース専用車)を先に取り上げる。

掲載日/2020年2月17日  取材・写真・文/やかん
取材協力/カワサキモータースジャパン

 

━導入編からの続き

 さて、ではより突っ込んだ『インプレッション記事』である。

 順番的には、国内でのメインターゲットとなり得る『 KLX230 』(公道車)を紹介したくなるのだが、開発の経緯、目的、意図を尊重して『 KLX230R 』(コース専用車)を先に取り上げる。


カワサキ KLX230R(2020年モデル)
完全オールニューの、クローズドコース専用オフロードモデル。基本仕様は、同時期発売のKLX230とほぼ一緒。
価格:51万7,000円(税10%込み)、カラー:ライムグリーン、2019年10月1日発売済
都内での事前説明会に続き、試乗コースでもお話を聞かせてもらった、KLX230兄弟の開発陣。中央が、開発責任者である川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニーの和田 浩行氏。右が、エンジン設計の城崎 孝浩氏。左が、デザイナーの小林 稔氏。和田氏がかつのてオフロードブームを体験していて、その時の気持などが大きく投影されている印象を受けた。

 

何故ニュートラルポジションランプないのか甚だ疑問

 基本的な仕様は事前にアナウンスしているように、新型フレームに、同じく新型の空冷 4 ストローク 232cc SOHC 単気筒エンジンを搭載。250cc ではなく中途半端な(約)230cc になったのは、
「初中級ライダーが楽しめる走りを追求していった結果、車重を軽くする目的もあり空冷で、使い易いパワーと特性を狙いこの排気量になった」
とのこと。従来の『 KLX250 』の代わりを目指した訳ではないし、ホビーオフロードライドを企図しているので、納得かと。

KLX230兄弟の注目すべきポイントは、フレームもエンジンもオールニューであることだろう。この空冷エンジンは、《カワサキ 技術本部 第一設計部 第四課 基幹職》の城崎 孝浩氏が設計を担当。
「ハイパワーは求めないで、中低速での扱いやすいトルクと快適で自然なフィーリングを目指し、しっかり作り込みました」との談。R用は振動軽減のバランサーシャフトが入っていない、ある意味「本来の」キャラクターも持つ。

 

 そのエンジンは、キャブレターではなくフューエルインジェクションで制御され、バッテリー搭載なので始動はスイッチ 1 つで可能。

 変わっているのは、ハンドルクランプ部(センター)にメインスイッチがあること。まずここを ON にしないと、右側のスタートスイッチを押しても始動はしない(ボタン色はグレー)。キルスイッチは、一般的な左ハンドルに(ボタン色はレッド)。

KLX230Rは言ってみれば「レーサー」なので、鍵(キー)はない。ハンドルクランプ近傍にあるのが、メインスイッチになる。左は給油、右はインジェクションエラーランプ。
始動関連は、このようになる。ハンドルクランプ部のメインスイッチを押さないと、インジェクションシステムも起動しない。

 

 このキルスイッチというのは、パドック(※)に戻ってきた時にエンジンを停止させる使い方のほか( R はキーレスなので)、コース上で転倒して後輪の回転が止まらず危険を感じた時などに強制停止させる役割もある。
※ここでは駐車場を指す。

『 無印( KLX230 のこと) 』もそうなのだが、KLX230 兄弟は、何故かギヤのニュートラルポジションランプがなく、いまギヤが何速に入っているかまったく解らない欠点がある。
(モトクロッサーでは当たり前であるが、入門車としてはこれは非常に不親切に感じる。)

 よって、転倒した時にギヤをニュートラルに戻してバイクを起こす、というのは非常に難しい。これは、オフロードバイクは倒れてもかなりの確率でリアタイヤが空転した状態になるからで、かとってそのまま起こすのは危ない。初心者はクラッチレバーを握りながらマシンを起こすのも大変だと思うので、ここは落ち着いて 1 度キルスイッチで停止させ、起こすのがベター。

 KLX230R はサイドスタンドがあるので、コース脇にマシンを寄せてスタンドを立てて一呼吸するのをお薦めする。ここがやはり、KX シリーズとは違うところだろう。「安全に」「楽しむ」が 1 番で、競ったり無理なペースで走る必要はまるでないのだ。

 

クラッチの操作フィーリングは標準レベル

 これに関係するクラッチ周りだが、レバーはワイヤー引き(ハイモデルやオンロードモデルは油圧式もあるが、オフロードではワイヤーが一般的)。引きは特段重くはなく、また低速重視で割りかし粘るエンジン特性なので、クラッチミートに神経質になる必要はない。

 ただし、KLX230R はエンスト防止のため、アイドリング回転数がかなり高く、「どかんっ」とクラッチを繋ぐと少々、扱いづらい。路面状況によっては、クラッチレバーを積極的に活用し、丁寧に繋いだほうがよい。マニアックな説明だと、KLX250 シリーズに FCR キャブレターを装着した時のようなアイドリングの高さになっている。よって、路面抵抗の低い箇所で乱暴に繋ぐと、後輪が空転してしまう傾向がある。

 ほかに細かなところでは、シフトペダルが気になる。標準では取り付け角度が下を向き過ぎていて、マシンの上でボディアクションを繰り返す乗り方では、体勢が不自然になってしまう。標準よりやや上向きでセットし直したほうが、圧倒的によい。

 オフロード走行は、いくらビギナーでも『ブーツ』の着用が望ましく、そのほとんどは足首の自由度がかなり制限されるので、つま先を大きく下げるような動作はできないからだ。

KLX230Rの無印(KLX230)との違いのひとつが、先端が可倒式になっているシフトペダル。ここが動かないと、転倒時にペダルを大きく曲げてシフトチェンジできなくなったりするので、必須の機構。
ちなみに他の部品でも言えるが、この2台は基本設計が一緒なので色々なところで共用ができ……。
参考:オフロードブーツは必須。初めは、プロテクション性能よりも足首の動かし易さを選定の目安にしたい。ソールは乗り方によるが、通常はフラットタイプ。降りて土の上でマシンを押す時間が長い場合は、エンデューロタイプがよい。

 

日本人は苦しむ、拷問に近いシート高

 オフロードブーツを履いた時の足首の不自由さに関連して、今回の KLX230 兄弟の最大の懸案は、そのシート高。筆者はプレ記事でも強く指摘してきたが、実車を前にしても『 無印 』も『 R 』もかなり高い。

<参考記事リンク>
【カワサキ】公道オフローダーとして『KLX230』が新たに登場! 心臓部は空冷4ストローク SOHC 2バルブ。

 これは、そもそもの開発初期において、モトクロッサーの KX シリーズのイメージを本機にも積極的に投影しよう、という強い方向性があったからだ。KX シリーズに羨望を抱くアジア圏ユーザーの心をキャッチする目的で、KX テイストがかなり取り入れられている。そのひとつが、タンク上端からリヤフェンダーまで流麗さを感じられるスタイリングで、結果、シートの落ち込みがほぼ皆無になっている。

イメージ:カワサキ KLX230R

 

 このようなスタイリングは、そもそもはモトクロッサーでは「当たり前」であり、マシンの上で自由かつ積極的なボディアクションが阻害されないことから、基本的には「良い」とされている。その代償が「足着きの悪さ」に結実する訳で、モトクロッサーは KX シリーズに限らず、背が低く股下が短い日本人のほとんどは、足が届かない。

参考:モトクロッサーはこのようなフラットデザインが当たり前。
参考2:スタートしたら最後、ゴールまで足を着かないレーススタイルもあり、落ち込んだシートはボディアクションの妨げにしかならない、という考えが主流。
参考3:レース中は、ほぼスタンディングで、シートに座るのは短い加速でジャンプを飛ぶ時などに、意図的にリアに強い荷重を掛けるシーンなどだけ、と独特でもある。
日本人だとこのパターンは多い。後述するが、足台必須。

 

『 R 』のメインターゲットが北米マーケットであるので止むなしではあるし、タンクから極端に落ち込んだシートのオフロード車は確かに格好悪いのは事実なので、そこを市場がどう捉えるか……。

カワサキの多くのモデルを担当した経験を持つ、《カワサキ 技術本部 デザイン部 スタイリング課》のデザイナー、小林 稔氏がスタイリングを担当。見ると解るが、北米向けの実績が多く、ここからもKLX230兄弟の立ち位置が読み取れる。

 

KLX230兄弟の開発&販売目的のひとつである、「KXシリーズに羨望を抱くアジア圏ユーザにミートさせる」。そのために意図的に取り入れられたのが、『KX譲りのシート下まで伸びたロングシュラウド』。2016年に大きく変わり同社オフモデルのアイコン的存在になったが、これも小林氏によるものであった。

 

『シート下まで伸びたロングシュラウド』は、見た目の印象だけでなく、そのシームレスさから、「ライダーが移動する範囲に部品の継ぎ目がなくなったことで、引っかかりのない機能面でのメリットも出た」。

 

特徴的なライムグリーンの大型パーツがホビーオフロードマシンにも採用されている点は、効果が非常に大きいと思う。筆者個人も、この一体型のシュラウドラインは、モデルチェンジしてからずっと憧れていたルックスである。

 

小林氏によるスケッチを見れば、明確にモトクロッサーKXシリーズを意識しているのが解る。だからといって、KX85ではないところも重要なポイント。
カワサキ KLX230R

 

足着きの悪さでトレッキングは微妙?

 このような点から、発売前にイメージしたエンデューロレースでの使い方は、個人的にはやや懐疑的。やはり、モトクロッサーのように『足台』を用意して、パドックではそこからスタート。戻ってくる時用にも、事前に広い台を置いておくか手前に石などの足場を確認してから出発したほうがいい。ツワモノになると、スタートする時は片足をステップに掛けた状態で走り出し飛び乗ったり、帰ってきた時はその逆の動作で降りるが、正直スマートではないし『 R 』のターゲット層とは外れるスキル。

参考:いわゆる足台。
参考2:いわゆる足台。

 

 ファンライドやホビーレーサー向けモデルなので、コース上で転倒することは大いに考えられるし、慣れないコースを走る時、一旦止まりラインを見定めたりしたいことは多々あるので、日本人にとって、このシート高は地獄でしかない。

 筆者は身長が 156cm しかなく、取材当日の装備品含めた体重は 60kg で、ややハード目に設定されたサスペンションでは 1G’ (※)でも沈み込みはあまり期待できず、砂利からスタートした時、荷重が垂直に掛かっていない性でリアタイヤが流れ、いきなり転倒もした……。
※ワンジーダッシュ/車体全体の重みで沈んだ 1G に、ライダーがさらに跨ってその荷重が掛かった状態のこと。

 以下の動画は KLX230 のモノだが、あちらでも足着きの悪さは似たもので、終始動き回っているのは、未見のコースでは足着き場所が解らず停止できなかったため。

 湿った下り坂でいきなり派手に転倒しているのは標準のタイヤと空気圧に依るモノだが、尤も、このような局面では『 R 』ならではの特性が大きく有利にはたらく。

 

専用コースでのイージーモトクロスに好適な予感

 というのも、シート高に関してネガティブな印象を連々書いたが、ストローク豊かで硬めの足回り、クローズドコース専用(公道禁止)タイヤならではのグリップ力、保安部品がないことによる軽量な車体は、やはり戦闘力が高め。

カワサキ KLX230Rの走破力を上げている大きな要因のひとつが、標準装着のタイヤ。エンデューロにも対応するダンロップのD952を、前後に履く。
リアは、100/100-18 59Mとトレール系ではスタンダードな18インチ径。タイヤの選択肢は多いが、このD952で困ることはまったくない筈。
フロントは、80/100-21 51M。試乗車の空気圧もあるのだろうが、無印とRではこのタイヤ性能による差は大きく、KLX230Rでグリップ力に不安を抱くことは一切なかった。無印(KLX230)で走り込むひとは、ひとつ参考になるだろう。

 

 普段は KX80-II と、カスタムした KLX250SR でモトクロスをしている自分としては、確かに『 R 』はそれらの間に位置しそうな性能を持っている。ややモタっとした吹け上がりと、1 つのギヤでのパワーバンドの狭さは気になるが、逆に開け口での特性はマイルドで、かといってエンストしてしまうような線の細さは一切なく、オフロードに不慣れでアクセルワークが雑になってしまっても、急にマシンが暴れるおそれは少ない。

 

 慣れてきてアクセルを開けられるようになると、シフトアップは忙しくなるが半クラッチを覚えれば 1 速高いギヤでもエンジンは咳き込むことなく付いて来てくれるし、上がった速度に対してサスペンションもタイヤもまったく音を上げないので、安心して高いスピード域を維持できる。

筆者はオンロードにはほとんど乗らないのでピンッと来ないのだが、KLX230Rのフロントサスペンションは、きちんと左右どちらにもスプリングとダンパーが入っている。リアはリザーバータンクのないタイプだが、前後ともセッティングは当然、無印よりも硬め。
KLX230Rは走破力を高めるために無印(KLX230)よりも、サスペンションのストロークが長い。もっとも、KLX230兄弟は『R』ありきで始めたマシンでもあるので、“無印はこれよりもローダウンしたモデル”という認識が正しいのかもしれない。

 

 モトクロスをすると解るのだが、公道で快適な足回りというのはオフロードコースではほぼマイナスにはたらく。恐怖を感じるだけでなく転倒など怪我にも繋がりやすく、『 R 』はさすが、そこで破綻する気配を感じさせない。取材当日のフィールドがスピードを出すにはまったく不向きだったので、中速以上での KLX230R の能力は未知だが、その後に行なわれた販売店向け試乗会の動画を見るに、まったく問題ないようだ。

参考:試乗コースの一部。モトクロスコースのようなレイアウトではなく、ジャンプ性能などは確認できなかった。

 

 開発者はあまりジャンプは考慮していないようであったが、ホビーユース程度のジャンプなら楽しめそうなのも、ポイントは高い。オフロードコース専用車ならば、いずれは飛んでみたくなるのは自然な流れだし、ひとつの楽しみである。そこで、「はい、それは KX シリーズでやって」ではナンセンスであり、KLX230R にその心配はなさそうだ。

カワサキ KLX230Rの特徴のひとつ、リアブレーキはマスターシリンダーとリザーバータンクが一体のレーサータイプになる。フレームは無印(KLX230)とほぼ一緒なので、そちらに移植することも……?
KLX230Rはオフロード走行を重視しているので、リア周りが大きく違う。スイングアームは軽量なアルミ製で、チェーンガードも金属&樹脂のタフな物に。ホイールベースは、無印(KLX230)よりも20mm短い。ただし、サイドスタンドは標準装備なので、あらゆるシーンで便利で助かる。
燃料タンクは、レーサーでは一般的な樹脂製。キャップも、キーロック機構などのないただのねじ込み式なので、保管時は注意したい。容量は、6.5リットル。

 

お勧めはしたいが運搬手段がとにかくネック

 惜しむらくは、この KLX230R を簡単に誰彼構わずに奨めるのは、憚れるということだ。いくら「本格オフロード走行の入口車として作った」し、「これを機会にその世界に足を踏み入れて欲しい」、という開発者(和田氏)の想いはあっても、日本での運用は簡単なことではない。自走不可の障壁は大きい。KLX230 の頁でも触れるが、メンテナンスの(いい意味での)イージーさなどたいへんに工夫と気配りをされてはいるのだが、なにせトランスポーターが必須なのだから。

トランスポーター(クルマ)を使った積載&遊び方のイメージ。このハードルをどう突き崩していくかが、KLX230Rについては課題。

 

 日本はオフロード専用コースも少ないし、レンタル用としてこの車両を購入し新たな来場者に楽しんでもらえるよう整えられる運営母体もない。筆者としては、メーカー先導で、一般ユーザーに乗ってもらえる機会を作って、「本格オフロード走行(バイク)ってこんなに楽しいんだ!」と感じてもらい、その後に繋がる流れを実施してもらいたいのだが、事前説明会の時点( ’19 年 9 月)で「まったくその予定はない」、との回答であった。

 やはり、メインターゲットは北米になってしまうのだろう。非常に残念な話しなのだがそこは現実を見つめるとして、あとの頁で、この KLX230R を楽しむために金銭面を含め越えなければならない中身をシュミレートしてみようと思う。ここで一旦、『 R 』については筆を置き、国内での主要購買対象になる KLX230 に話しを移して行きたいと思う。

 

 

ダート&モト編集部
サトウハルミチ(やかん) Harumichi Sato
東京都生まれ千葉県育ちで、身長 156cm の mini ライダー。紙媒体の編集を長く経験した後、2012 年 4 月から初めて WEB マガジンに携わる。戦車から航空機まで無類の乗り物好きで、特に土の上を走る四輪・二輪に目がない。競争事も好きで、マウンテンバイク/モトクロスはレース経験あり。モーターサイクル/スポーツサイクル以外にフィルムカメラ、ホームオーディオ、クルマ、紙の読書(恩田 陸先生の大ファン)、ガンプラが大好きで、住まいはモノで溢れている。特技は、引き落としの滞納。モーターサイクルは、KLX250SR(’95)と KX80 – II(’98)を所有。