掲載日/2021年6月17日 文/やかん
アメリカなどでは発表のあったオフロードレーサー(要はモトクロッサー)の KX シリーズに、排気量を 100 cc から 112 cc に拡大した KX112 と、それに合わせて一部がリファインされた KX85 L が登場した。簡単ではあるが、それらについて見ていきたい。
KX112 のあらまし
KX112 とは、どんなマシンなのだろうか? 有り体に言ってしまえば、モトクロッサー小排気量クラスのパワーアップ版だ。メーカーでも、フワッとした概要を発表しているので、以下に記したい。
【 KX112 】
新しい KX112 は、111 cm³ に排気量をアップした 2 ストローク単気筒エンジンを搭載し、小排気量クラスでの戦闘力を向上。大幅に向上したエンジン性能に加え、モトクロスを始めた若年層のみならず、より幅広いライダーの体格にフィットするようシュラウド形状を変更しています。 また、エンジンやトランスミッションの耐久性を向上させたほか、ダンロップ製の MX33 タイヤを採用。さらにカワサキの KX ファクトリーレースマシンをイメージした印象的なスタイリングも実現しています。
■従来モデル( KX100 )からの主な変更点
- 排気量を拡大し、低回転域でのトルクが強化された 111 cm³ 2 ストローク単気筒エンジン
- エンジンのパワーアップに合わせて、強化されたトランスミッション
- 車体とのフィット感を高めつつ、導風による冷却効果を向上した新設計シュラウド
- エルゴノミクスパッケージと、精悍で機能的なルックスを両立させたアグレッシブ KX ルックス
- 標準装備されたダンロップ MX33 タイヤ
※従来からの『主な特長』は省略。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx112_left.jpg?w=840)
ほぼ、想像通りの中身だと思う。写真を見ると、元から KX85 のエンジン上部にはかなり余裕があったので、エンジンを縦に少し伸ばすのは無理はなかっただろうが、結果、KX112 は、ストロークを 5.8 mm 延長することで排気量を拡大している。これによる効果は、全体的なパワーアップだけでなく、特に低回転域のトルクが高く(太く)なっている。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/re22kx112a_cg_engineperformancecomparison.jpg?w=840)
2 ストロークエンジンの小排気量モデルは、特性上、どうしてもキャラクターがピーキーになりがちで、また、低回転域ではトルクが細めになる傾向がある。かといって、アクセルを開けると急激なパワーカーブによりオフロードでは虚しく路面を掻くだけが専ら。繊細なアクセルワークやリヤタイヤへの荷重コントロールがスリッピーな路面になればなるほど要求されるが、それとは別に、絶対的なパワー不足といった一面もライダーによってはある。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/re22kx112a_transmmision.jpg?w=840)
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/re22kx112a_crankshaft.jpg?w=840)
KX112 は体格の大きなライダーの使用もかなり意識しているようで、物理的に乗車体重が増した時のトルクアップでのコントロール性の向上や戦闘力アップを狙ってもいるのかもしれない。
日本国内での活躍の場はどこか
ただしこれは、KX100 が日本国内で発売された時も思ったが、このマシンの使いみち、活躍の場はどこか? という点である。モトクロスに限ってしまえば、MFJ の地方戦でも関東ローカルの MCFAJ でも 112 cc は『フルサイズ』扱いになってしまう。パワーだけでなく、フロント 19 インチ、リア 16 インチのタイヤサイズも、これでは分が悪い。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx112_shroud.jpg?w=840)
筆者の予想では、モトクロスが盛んな欧米はそもそもの体格が日本人より大きく、しかしフルサイズモトクロッサーではまださすがに、という世代も当然いて、今回、改名となった KX85 L (旧名、KX85 – II )とそれの中間、移行用の練習車という位置付けなのだと思う。
しかし、それをそのまま日本に持ち込んで、商機があるのか。モトクロッサーは、公道車のような販売計画台数は公表されないので、腹の中は解らないが。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx112_right73.jpg?w=840)
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx112_f_tire.jpg?w=840)
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx112_r_tire.jpg?w=840)
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx112_ergonomics.jpg?w=840)
名称と共にリファインされた KX85 L
翻って、まだ販売台数が見込める KX85 L(旧 KX85 – II)に、この KX112 に盛り込まれた改修部が採用されることになった。その殆どは機関周りで、パワーアップに応じて改良された箇所を、生産ラインの共通化によるコスト吸収を狙って取り入れたのだろう。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx85d_right7-3.jpg?w=840)
そうはいっても、どれも重要な部分であるので歓迎したい流れだ。
メーカー発表の概要は、次のとおり。
【 KX85・KX85 L 】
KX85・KX85 L は高い剛性を誇るペリメターフレームに 84 cm³ のパワフルな 2 ストロークエンジンを搭載。インナーチューブ径 36 mm の倒立フロントフォーク、ユニトラックリヤサスペンションなど充実した装備との組み合わせは優れたパフォーマンスを発揮します。2022 年モデルでは、新たにエンジンやトランスミッションの耐久性向上、ダンロップ製タイヤ MX33 の装着のほか、新シュラウド採用よる優れたフィット感と冷却効率、シャープなスタイリングを実現。未来のチャンピオンを表彰台の頂点へと導くためのマシンとして、より進化を遂げています。フロント 17 インチ、リヤ 14 インチの KX85 に加え、フロント 19 インチ、リヤ 16 インチの大径ホイールを採用した KX85 L も同時にラインナップしています。
■主な変更点
- KX112 での改良点を採用したエンジン・トランスミッション
- 車体とのフィット感を高めつつ、導風による冷却効果を向上した新設計シュラウド
- エルゴノミクスパッケージと、精悍で機能的なイメージを両立させたアグレッシブな KX ルックス
- 車名の変更「 KX85 – II 」→「 KX85 L 」
※こちらも、従来からの『主な特長』は省略。
これだと詳細が解らないので、別資料より引っ張る。KX112 と共有される改良点は、次のとおり。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/re22kx85d_transmmision.jpg?w=840)
- スモールエンドニードルベアリングのリテーナーを強化。さらにビッグエンドニードルベアリングの負荷容量を高めることで、KX112 エンジンの高出力化に対応する信頼性を獲得している。
- 走行風をより効率的にラジエータへ送る新シュラウドデザインが、冷却性能向上に寄与。
- KX112 エンジンのパワーアップに合わせて、新設計の 6 速トランスミッションを採用。KX85 および KX85 L にも同様の変更を適用する。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx85d_syuraudo.jpg?w=840)
つまり、基本的には排気量アップによるカロリー増に応えたものになる。KX85 L で足を引っ張ることは考えられないので、例えば「そろそろ買い替えかな」と考えているユーザーには好材料となる。
時代を捉える必要性
2022 年度用として新登場した KX112 に対しては、かなり辛口の紹介にはなってしまったが、出せば売れる、良い物を作れば売れる、という時代はとうに過ぎ、ましてやこういった分野への風当たりがなおも強くなる世相では、単に手放しで「新製品です」「期待が持てます」といった紋切り型の記事では、それこそ通用しない。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx85d_left.jpg?w=840)
話題として取り上げる訳だから筆者はオフロードもモトクロスも好きだが、世間からの様々な締め付けは厳しくなる一方で、そういった中で惰性的にイヤーモデルを出すのか、そうでないのかも含め、自分の好きな趣味が今後も共存と発展をし続けるには道筋を考え続けなければならない。
そういった意味では、今回の 2 台に取材用車輌が用意されないのは残念。実際に乗って、立ち位置を見定めることができないからである。
裏を返せば、日本国内の台所事情として、メーカーの採算ベースには載らない、ということだ。個人的には、まだ 1998 年製の KX80 – IIに乗っているので、今回のリファインを期に、さすがにそろそろ KX85 L を買いたいところではあるが。
【 KX112 主要諸元 】
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx112_right01.jpg?w=840)
車名/KX112
全長x全幅x全高/1,920 mm × 765 mm × 1,150 mm
軸間距離/1,310 mm
最低地上高/330 mm
シート高/870 mm
キャスター/トレール/29.0° / 108 mm
エンジン種類/弁方式/水冷 2 ストローク単気筒/ピストンリードバルブ
総排気量/111 cm³
内径x行程/圧縮比/52.5 mm × 51.6 mm / 9.9:1 (低回転) ・ 8.6:1 (高回転)
始動方式/プライマリキック
点火方式/デジタル CDI
潤滑方式/混合( 32:1 )
ギヤオイル容量/0.7 L
燃料供給方式/キャブレター KEIHIN PWK28
トランスミッション形式/常噛 6 段リターン
クラッチ形式/湿式多板
ギヤ・レシオ/1 速/2.538( 33 / 13 )
2速/1.875( 30 / 16 )
3速/1.500( 27 / 18 )
4速/1.250( 25 / 20 )
5速/1.090( 24 / 22 )
6速/0.956( 22 / 23 )
一次減速比 / 二次減速比/3.400( 68 / 20 ) / 3.923( 51 / 13 )
フレーム形式/ペリメター(高張力鋼)
懸架方式/前 テレスコピック(倒立・インナーチューブ径 36 mm )、後 スイングアーム(ユニトラック)
ホイールトラベル/前 275 mm、後 275 mm
タイヤサイズ/前 70 / 100 – 19 42M、後 90 / 100 – 16 51M
ホイールサイズ/前 19 × 1.40、後 16 × 1.85
ブレーキ形式/前 シングルディスク 220 mm(外径)、後 シングルディスク 184 mm(外径)
ステアリングアングル(左/右)/45° / 45°
車両重量/77.0 kg
燃料タンク容量/5.0 L
カラー/ライムグリーン(GN1 )
※改良のため、仕様および諸元は予告なく変更することがあります。
【 KX85 L主要諸元 】
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/22kx85d_right.jpg?w=840)
車名/KX85 L
全長x全幅x全高/1,920mm×765mm×1,150mm
軸間距離/1,310mm
最低地上高/330mm
シート高/870mm
キャスター/トレール/29.0°/ 108mm
エンジン種類/弁方式/水冷2ストローク単気筒/ピストンリードバルブ
総排気量/84cm³
内径x行程/圧縮比/48.5mm×45.8mm/10.9:1(低回転)・9.0:1(高回転)
始動方式/プライマリキック
点火方式/デジタル CDI
潤滑方式/混合(32:1)
ギヤオイル容量/0.7L
燃料供給方式/キャブレター KEIHIN PWK28
トランスミッション形式/常噛6段リターン
クラッチ形式/湿式多板
ギヤ・レシオ/1速/2.538 (33/13)
2速/1.875 (30/16)
3速/1.500 (27/18)
4速/1.250 (25/20)
5速/1.090 (24/22)
6速/0.956 (22/23)
一次減速比 / 二次減速比/3.400(68/20)/3.923(51/13)
フレーム形式/ペリメター(高張力鋼)
懸架方式/前/テレスコピック(倒立・インナーチューブ径 36mm)
後/スイングアーム(ユニトラック)
ホイールトラベル/前/275mm
後/275mm
タイヤサイズ/前/70/100-19 42M
後/90/100-16 51M
ホイールサイズ/前/19×1.40
後/16×1.85
ブレーキ形式/前/シングルディスク 220mm (外径)
後/シングルディスク 184mm (外径)
ステアリングアングル (左/右)/45°/ 45°
車両重量/77.0kg
燃料タンク容量/5.0L
カラー/ライムグリーン(GN1)
※改良のため、仕様および諸元は予告なく変更することがあります。
![](https://yakandirtmoto.wordpress.com/wp-content/uploads/2021/06/profile.jpg?w=180)
ダート&モト編集部
サトウハルミチ(やかん) Harumichi Sato
東京都生まれ千葉県育ちで、身長 156 cm の mini ライダー。紙媒体の編集を長く経験した後、2012 年 4 月から初めて WEB マガジンに携わる。戦車から旅客機まで無類の乗り物好きで、特に土の上を走る四輪・二輪に目がない。競争事も好きで、マウンテンバイク/モトクロスはレース経験あり。モーターサイクル/スポーツサイクル以外にフィルムカメラ、ホームオーディオ、クルマ、紙の読書(恩田 陸先生の大ファン)と、住まいはモノで溢れている。モーターサイクルは、KLX250SR(’95)と KX80 – II(’98)を所有。
- 当サイトに含まれるすべてのコンテンツ(記事・画像・動画・イラストなど)の無断転用は、商用、個人使用を問わず一切禁じます。
© yakan_Dirt & MOTO All rights reserved.